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思考の泡

プログラミング、サイエンス、その他日常のことをゆるゆると

重力波観測の衝撃

重力波が初めて観測されたというニュースが飛び込んできたのが日本時間の2月12日。そんなこともあったっけ?と既に忘れかけている人も多いでしょう。政治スキャンダルや芸能ニュースと違って、科学ニュースは人々の頭に残らないものです。

何が凄いって、今回の観測があまりにも幸運に恵まれていたことです。

今回重力波を観測したのはLIGOと呼ばれるアメリカの観測装置です。2004年頃から試験的な運用を開始したようですが、その後もテストしたり改良したりを繰り返していていました。今回の観測は、5年にも渡る大規模な改修工事で機能アップした後、2015年9月に観測を再開し、そこから1ヶ月も経たない内の出来事でした。

観測された重力波は13億光年の彼方で二つのブラックホールが衝突して合体したときに発生したものです。(どうやってそんな事が分かったかというと、それはそれでとても面白い話なのですが、あまりにも複雑なのでここでは省略します。) 重力は光の速度で伝達します。つまり重力の波が13億年かけて地球に到達し、地球をサーっと横切った瞬間、観測装置に波形が記録されました。検出された時間はたったの0.2秒。つまり13億年分の0.2秒を捕まえた訳です。到達するのがあと数ヶ月早かったり、観測するのがあと数ヶ月遅かったら捕まえることはできませんでした。本当に幸運としか言い様がありません。

 

今回(と言っても13億年前ですが)衝突したのは太陽質量の36倍と29倍のブラックホールです。合体して太陽の62倍のブラックホールが誕生しました。あれ? 36+29=65 じゃないのと思うかもしれませんが、この差分の3太陽質量分がエネルギーとして一気に放出されたのです。これがどれほど凄まじいものかというと、全宇宙の星が放っているエネルギーを合計したものよりも50倍もの大きさだと言います。これ程のエネルギー放射は、スケール感が麻痺した宇宙現象の中でもそうあるものではありません。こんなものが太陽系の近くで起こったら人類など瞬殺です。13億光年の彼方で幸いでした。

あまりにも良いタイミングということで思い出すのは1987年日本のカミオカンデの例です。あちらも観測を開始した直後に、偶然にも大マゼラン雲で発生した超新星爆発からのニュートリノを検出して、小柴先生のノーベル賞に繋がった訳です。人類はついているのかもしれません。

 

しかし幸運の度合いで言うと今回の例はカミオカンデとは比較になりません。カミオカンデ超新星爆発は銀河系のすぐ近くで発生したものです。と言っても16万光年の彼方ですが。更に新星爆発は広い宇宙の中では比較的よく発生する現象です。それに比べブラックホールの衝突がどれくらいの頻度で発生するのかはよく分かっていません。それ以前に今回の様な大きさのブラックホールが存在することすら人類は知りませんでした。従来の宇宙論ではブラックホールは存在するにしてもせいぜい太陽の10倍程度か、あるいは銀河の中心に存在する太陽の何万倍もあるような超巨大なものしか知られていませんでした。その中間はブラックホールの空白地帯だったのです。それが今回の観測で、少なくとも30倍程度のブラックホールが実際に存在することがはっきりした訳です。とまあ、よく分かっていないブラックホールの実態ですが、観測可能なブラックホールの衝突が人類の存在期間中に発生したことすら奇跡だったのかも知れません。

 

重力波は減衰こそしますが、光の様に遮られたり吸収されて見えなくなってしまうことはありません。宇宙が存在する限り永久に空間を進み続けます。しかし観測するチャンスは目の前を通過した瞬間一回限りです。今回の観測は宇宙の中でも極めて稀な現象を、もうこれ以上ないくらい絶妙なタイミングで観測したと言えます。まさに幸運が重なったとしか言い様がありません。更にアインシュタイン重力波を予言してからちょうど100年目というおまけでついています。これってそうとう凄い事と思いませんか?