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思考の泡

プログラミング、サイエンス、その他日常のことをゆるゆると

復号化する?

大学時代、暗号理論を専門とする研究室に所属していました。その担当教授が言っていた言葉が今でも記憶に残っています。

 「暗号化する」という言葉はあるが、「復号化する」という言葉は無い。それを言うなら「復号する」だ、と。

言われてみるとなるほどなと思いました。「復号化する」は確かに冗長な感じがします。以来、自分で書く文章には「復号化する」は決して使わないよう心掛けてきました。しかし回りを見回すとこの「復号化する」けっこうよく見掛けます。

  

「〜する」はあらゆる名詞の後に付いてそれを動詞にしてしまう便利な言葉です。しかし直接「する」を繋げられる名詞と、いったん「化」を付けてからでないと「する」を繋げられない名詞があります。この違いは何なのでしょう?例えば「仮装(火葬)する」と「仮想化する」。同じ読みでも意味によって、我々は無意識に使い分けています。単に語呂だけではないようです。外人にこの違い説明できますか?

長い間疑問に思っていましたが、最近読んだ井上ひさし氏のエッセイの中に明快な解答がありました。 

まず名詞を二つのグループに分けます。

グループ1  更新、破壊、計算、恋愛、入学、失敗、起動、始末、総括

グループ2  視覚、モデル、抽象、仮想、民営、商品、企画、立体、平均

グループ1は動作名詞です。このグループはそのまま「する」を接続するとサ変動詞になります。それに対し動作名詞でないグループ2は、まず「化」を付けていったん動作名詞化してからでないと「する」を接続できません。

 

井上氏はある名詞が動作名詞かどうかを判定するのに、その名詞の後に「〜を行なう」を付けてみて、不自然な日本語にならなければ動作名詞であるとする方法を提案しています。これを(半ばふざけて)「井上式反応測定法」と呼んでいます。

グループ1は「更新を行なう」「破壊を行なう」とか、確かに日本語として成り立ちます。中には「失敗を行なう」みたいに少しおかしな表現になるものもありますが、ギリギリセーフでしょう。グループ2の方は完全に日本語として成り立ちません。例外もありますが、だいたいはこの法則が適用できます。

この法則に従えばやはり、「復号化する」よりは「復号する」の方が適切なようです。 

 

また井上氏はエッセイの中で、青春する、サラリーマンする、主婦する、みたいにこの法則が成り立たないものが、時に流行として使われることがあるとしています。しかしこういった法則を外れたものは不安定で、構造が弱く、そう長持ちしないとも言っておられます。

しかし最近気付いたのですが、法則の例外であるにも拘らず、「お茶する」みたいに完全に定着してしまったものもあるようです。