思考の泡

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文章の幼児退行化 - いわゆる「用言+です」問題について

「今日はとても楽しかったです。」

 

 小学生の作文によくある文章です。この文章をどう思いますか?違和感を感じる人と感じない人がいるようです。私はやはりどうも稚拙な文章だなという印象を受けます。

 

何がいけないかというと、本来「です」は名詞のように活用しない語(体言)に接続するもので、活用する語(用言)に接続するとこのような座りの悪い文章になってしまうのです。

 

最近はこの「用言+です」が溢れかえっています。

「〜したいです」「〜が多いです」「あぶないですから〜」

何でもかんでもとりあえず「です」を付ければ丁寧語になるという思い込みから「です」の濫用を招いているのです。

 

国語教育もかつてはこの表現を禁止していました。昔は使うと注意されていたようです。では上の文章はどうすればいいかというと「今日はとても楽しゅうございました。」というのが本来の日本語のようです。しかし今時こんな前時代的な言葉を使う人はいません。

有名なマラソン選手の円谷幸吉の遺書は「〜美味しうございました」の羅列になっています。少なくともこの頃までは国語教育が徹底されていたことが伺えます。

 

しかし現在の国語教育では「用言 + です」は積極的には禁止しないという、ゆるく受け入れる方針に変わっていて、今の子供は注意されません。私も注意された記憶はありません。しかし世の中が受け入れる方向に進んでいるとはいえ、やはりこの表現が多様されると文章が稚拙で下品に見えてしまいます。はっきり言ってバカっぽくなります。

 

本多勝一氏の「日本語の作文技術」の中で、この手の表現を「サボリ敬語」と呼んで斬り捨ていています。しかし「サボリ敬語」が氾濫する現状を、最後は諦めのように締めくくっています。

 

昔あるコンピュータ関連の翻訳本を読んだ時、最初から最後までこの表現だらけでうんざりしたことがあります。まあその本の場合、終始ひどい日本語だらけで、オリジナルの内容がいい本だっただけにとても残念な気持になりました。

 

作家やライターのようないわゆる文章のプロはまずこの手の表現は使いません。この表現があれば、まあ文章スキルのない人が書いたなという判断基準にはなります。