思考の泡

プログラミング、サイエンス、その他日常のことをゆるゆると

Android で AdMob のテスト広告が表示されなくなってしまった

Android アプリの開発をしていて、いつからか分からないのですが、気がついたら AdMob のテスト広告が表示されなくなってしまいました。症状は以下の通りです。 

 

  • 実機ではテスト広告だけが表示されない。addTestDevice() を外すと実広告はちゃんと表示される。Genymotion のエミュレータでも同じ。
  • Android エミュレータ(AVD)ではテスト広告、実広告ともに表示されない。
  • 広告が表示されないとき、LogCat には "failed to load ad:3" と出ている。
  • テスト広告専用の AdUnitId を使っても表示されない。(サンプルコードに含まれているやつ)

 

開発段階で実広告を表示するのは危険なので注意してください。あまりやり過ぎると規約違反になりますから。

 

調べてみるとこの "failed to load ad:3" は色々なとことで発生しているらしく、様々な見解が出ていますが、決定的なものは見つかりません。一応サーバへはリクエストが届いていて、サーバが広告をフィルすることができなかった場合に出るということのようです。しかしテスト広告です。フィルできるも何もないと思いますが。

アカウントが停止されている場合に出るという話もありますが、自分の場合少なくとも実広告は表示されているし、日々収益も発生しています。アカウント停止はありえません。

 

もう訳が分からなくなってしまいました。万策尽きてもうどうにでもなれといった感じでしばらく放っておきました。まあ実広告は表示されるので実害はない筈です。

 

そうしたら数日経ったとき、気がつくとテスト広告もちゃんと表示されているではありませんか。いったい何だったんだろう?同じ問題が起こった方は暫く待ってみるというのも一つの手です。

本当クラウドが絡む問題ってやっかいです。

 

STAP騒動と小保方さんのパソコンスキルについて

小保方さんが手記を発表して話題になっています。私はまだ読んでいません。というかマスコミでほとんど内容が放送されて、既に全部読んだ気分になってしまっています。リケ女にありえないような文学的表現があったりして、なんかゴーストライター臭がぷんぷんする手記、今後もまあ読むことはないと思います。

 

一連の騒動では、結局最後まで公表されなかった秘密のレシピや、「STAP細胞を作った人は何人もいます」と言っていた割には最後まで誰も声を上げなかった同僚や研究仲間とか、消化不良のところがいくつか残ります。

 

実験ノートを取っていないとか小保方さんの杜撰さが取り上げられていますが、私が感じるのは、論文の写真は取り違えるわ、学位論文は下書段階のもを提出してしまっただとか、とにかく彼女のデータ管理技術の未熟さです。想像するに彼女のパソコンの中って、もうファイルがぐちゃぐちゃで、何がどこにあるか自分でも訳わか状態になっている気がします。写真なんてタイムスタンプ一つチェックするだけでかなり間違いは防げるものです。彼女の場合、何年も前に撮った学生時代の写真と取り違えているのですから。

こういったファイル管理技術などというものは大学などでは教えてくれません。何度も痛い目にあいながら自分で習得していくものです。

 

象徴的なのが一番最初に疑惑が浮かび上った例の切り貼り画像です。切り貼りするにしても、今時中学生だってもっと上手く仕上げまっせ。あのレベルの切り貼りを良しとして、公の論文に載せてしまう神経が理解できません。自分だったらあの切り貼り一つで論文を止めると思いますが。あれが彼女のパソコン技術の限界だったのでしょう。この辺からも彼女のパソコンスキルの低さが見えてきます。

 

一連の騒動につては日経サイエンス誌がかなり早い段階から詳細な検証を行なっていて、ES細胞混入の可能性についても指摘していました。硬派の科学雑誌のプライドがあるのでしょう、他のマスコミでは絶対に不可能なレベルの詳しい検証記事で、私など半分も理解できませんでした。理解できないながらも見えてくるのは、この分野の研究がいかに微妙なバランスの上で成り立っているかということです。ちょっとしたパラメータの見落しや違いでまったく異なった結果が出てしまうのです。

 

例えば山梨大学の若ハ...失礼、若山教授が当初「(STAP細胞が)自分の研究室由来のマウスでないことが分かって混乱している」といった意味のことを発言して、マスコミが一斉に飛び付いていました。しかしこれには教授の見落としがあって、実はそうとは言い切れないことが後になって分かるのです。(これについては日経サイエンスを除いてマスコミは完全無視) 教授くらいの専門家でも見落すことがあるのです。まして未熟な研究者であれば尚更です。

 

どうでもいいことですが、若山教授を見るとトレンディーエンジェルを思いだしてしまうのは私だけでしょうか?いや逆か、トレンディーエンジェルを見ると教授を思い出してしまう。本当にどうでもいい話です。すいません。

 

未熟な研究者は教科書通りにならないような結果が出てきたりすると、ひょっとして自分は世紀の大発見をしてしまったんじゃないかと妄想してしまうことが往々にしてあるものです。普通であれば先達が理詰めに問い詰めたりして、最後には間違いに気付くものです。彼女の場合不幸だったのが、周りの連中に祀り上げられてしまったことです。

あわよくばおこぼれにあずかろうと論文に名を連ねた連中は、いざ事が起こると、実験には参加していなかっただとか、名前を貸しただけだとか、いかに自分の関わりが小さかったかということを全力で主張し始めます。げにあさましき光景です。

これってあの東京オリンピックの生牡蠣スタジアム騒動でも同じような光景が繰り広げられていましたね。

 

お亡くなりになった笹井先生は本当にお気の毒です。若くして全てを手に入れてしまったエリート中のエリート。先生、挫折を経験されたがなかったのだろうなと想像します。そこにきてこれ以上ないくらい最大級のバッシング。エリート故の高いプライドもあって心が持たなかったのでしょう。

挫折を経験して心を鍛えておくことも人は必要だということでしょう。

 

 

 

重力波を初観測!

本日「アメリカのチームが重力波を初観測」というニュースが飛び込んできました。テレビでもさかんに取り上げられています。

 

まあ重力波に関しては以前からその存在を疑う研究者はまずいませんでした。観測されるのも時間の問題であると考えられていました。

アインシュタインが予測してから100年。何故こんなにも時間がかかったのかというと、自然界に存在する4つの力の中で重力だけが桁違いに小さいからです。自然界の存在する力は突き詰めていくと以下の4つの力に落ち着きます。

  • 重力
  • 電磁気力
  • 強い力
  • 弱い力

重力と電磁気力はまあ分かると思いますが、「強い力」「弱い力」というのは原子核の中とかで素粒子間に働く力です。(それにしてももう少し気のきいた名前の付け方なかったのかなと思います。)

重力だけがこの中でもうお話にならないくらい小さいのです。重力は日常生活の中で一番実感として感じられる力であることからするとこれは意外かもしれません。しかし他の3つは素粒子一つのレベルで働くのに対し、重力は月や地球のように天体規模の質量が集まらないと観測できるレベルにならないのです。

重力波=空間のゆがみであることが知られていますが、このゆがみというのがシャレにならなくらい小さくて、検出するにはとてつもない高精度の観測が必要になります。これがとにかく大変だったのです。

 

では重力波で何が変るのでしょう?

最も期待されているのは、今まで光(電波やX線等も含めて)でしか観測することができなかった宇宙が、重力波によって観測できるようになることです。

光は障害物があれば遮られてしまい、ガス雲があれば吸収されてしまうし、ブラックホールがあれば吸い込まれてしまったりもします。光で観測できる宇宙はこうした障害物をかろうじてくぐり抜けてきたごく僅かなものだけなのです。

しかし重力波はこういったものにほんとんど影響を受けません。行く手に巨大な天体があっても平然と突き抜けて、宇宙空間をなめらかに進んでいきます。ビッグバン直後に発生した重力波が今でも宇宙をつき進んでいるとも考えられています。

また光は素粒子間の相互作用で発生する非常にミクロな現象です。それに対して重力波は大きな天体が移動することにより発生するマクロな現象です。今までとはまったく違う宇宙象が見えてくることでしょう。

 

しかし科学ニュースって忘れられるのも早いんだよな。一年もすればこんなニュースがあったことすら人々の記憶からは消えてしまうことでしょう。皆さん憶えていますか、数年前にヒッグス粒子の発見という大ニュースがあったのを?

ブラックホールを真正面から扱った「インターステラー」は稀にみるトンデモ映画だった

2014年に公開された「インターステラー」はブラックホールを科学的に描いたハードSF映画だという触れ込みでした。しかし実際に観てみるとこれが稀に見るトンデモ映画だったのです。一度これを文章に残しておこうと思います。

 

ネタばれありですのでご了承ください。

 

ストーリーをごく簡単に要約すると、第2の地球を探すべくワームホールを越えて別の銀河に行き、地獄巡りの旅をするという内容です。(ひどい要約だな。)

 

まず背景設定から。何故か地球では作物が育たなくり、近い将来人間は住めなくなってしまうだろうという設定になっています。しかしアメリカの田舎町が砂嵐にみまわれているシーンしか出てこなくて、地球全体で何がどうなっているかさっぱり説明がありません。人類の取る選択肢は、新しい居住可能な惑星を探すか(プランA)、スペースコロニーに移住する(プランB)かしかないということになっています。背景説明が荒っぽいのでよく分かりませんが、もう少し別の選択肢もあるんじゃないかと思いますが。

 

そんなとき何故か土星の近くに突然出現したワームホールが別の銀河に通じていることが分かります。重力理論もまだ完成していないのに、突然表われた重力異常をワームホールだと断定する根拠もよく分かりませんが、更にそこに有人探査機を送り込むとう無茶苦茶ぶり。

結局プランBはバックアッププランとして、プランAの可能性を探るべくワームホールを通って別の銀河に探検に行くことになります。

 

主人公は元NASAパイロットで、一応相対性理論の知識はあるという設定になっています。(娘に相対性理論を教えておきたかったという会話が出てきます。) しかしこの主人公、事象の地平線からは何物も脱出できないことを知らなかったり、強い重力場では時間の進み方遅くなるこも知らない、更に特異点のことも知らないといったように、とにかく変なのです。全て会話の中で相手から教えられています。まあこの辺は一般視聴者に基本知識を理解してもらうため、わざとこういう会話しているということで、大きな心で受け止めましょう。

 

ブリキ細工みたいなロボットが出てきた時点でかなりヤバい匂いがしてきます。このロボット設計したデザイナーどう見てもまともじゃないでしょう。何故かプログラムのソースコードみたいなものを常に胸のディスプレイに表示しています。あれは何の意味があるのでしょう?このロボット意外な運動能力を見せたりします。しかし大きく揺れ動く宇宙船の中であの角ばった巨体は凶器になるのではないでしょうか?

 

無事ワームホールを抜けて最初に訪れたのはブラックホール近くにある惑星。重力の影響で時間の進み方が遅くなり、惑星上での1時間が母船での7年に相当するので作業は迅速の行なわなくてはなりません。ここで分かりにくいのが、惑星の重力が地球の1.3倍あって体が重いという表現が出てくることです。時間が遅れるのはこの1.3倍の重力のせいだと思いこむ人が多いと思いますが、この程度の重力ではほんとんど時間差は出ません。時間差が出るのはこの惑星がブラックホールの公転軌道上にあるからです。となるとこの惑星かなり高速で公転していて、更にブラックホールから猛烈な潮汐力を受けている筈です。それにしては波一つなく足が立つくらいの穏やな海が気になります。まあ最後には大波を受けてエラい目にあうのですが。

 

その後何だかんだあって、 主人公達はお約束通りブラックホールに吸い込まれそうになります。そこで機転を効かせた主人公は事象の地平線ぎりぎりまで近付き、その重力を利用して脱出(フライバイ)しよとします。しかし残念でした。ブラックホールの近くでは運動量が増えると、それは遠心力として働くよりも、より強くブラックホールに引き付ける力として働いてしまうというマニアックな事実をこの脚本家の方はご存じなかったようです。「運動の第三法則を使ってブラックホールから抜け出す」みたいなもっともらしいことを言っていますが、どうもブラックホールなんてちょっと頑張れば脱出できる程度の感覚でいるようです。

とにかく様々な困難が降り掛かる中で主人公の言った言葉がイカしています。「この際相対性理論は無視だ」と。無視してどうなる問題ではないと思うのですが...

 

ところでこの映画多分に「2001年宇宙の旅」を意識しているように思えます。エアハッチを爆破して宇宙船に乗り込むシーンや、ロボット(コンピュータ)が自己犠牲になって人間を救うシーン(これは「2001年...」の続編「2010年」のシーン)など、「2001年...」「2010年」へのオマージュともとれるシーンがいくつかあります。そう言えばお爺ちゃん(主人公の父)を演じていたジョン・リスゴーは「2010年」の中で重要な科学者の役を演じていた俳優です。

 

ブラックホールに飛び込んだ主人公は、気が付くと積み木細工みたいな空間にいるという場面転換シーンがあります。これも「2001年」を意識しているような気がします。「2001年」の中で宇宙をトリップしていた主人公が気が付くとビクトリア調の部屋にいるという意表をつくシーンがあります。原作者アーサー・C・クラークのイマジネーションとスタンリー・キューブリック監督の映像感覚が作りあげた、歴史に残る場面転換シーンです。しかしこの「インターステラー」、「2001年」のような神々しさが全く感じられません。安っぽいセットの中で糸に吊られてもがいているようにしか見えません。

 

ブラックホール内で主人公は、重力が時間と空間を越えられること知ります。これ自体相当トンデモな理論ですが、知ったところでそれをすぐに使いこなせるというのもあまりにも都合がよすぎます。が、百歩譲ってそれはまあ良しとしましょう。

そこで主人公は重力を制御し、過去の時間の中で自分の家の本棚の本を「押し出し」、娘にコンタクトをとろうとします。

重力を制御したところで周囲のもの全体に力が働いてしまい、一部の本だけに選択的に押し出すことはできません。あくまでもこれ、何億光年も離れた別の銀河から行っていることです。

更に言うと、そもそも重力は引力です。斥力としては働きません。本を押し出すことはできません。しかしこの主人公明らかに本棚の裏側から本を押し出しています。これはイメージ画像です、とでも注釈を入れた方がいいかもしれません。

 

とにかく重力を使って交信できるようになった主人公は今度はアナログ時計の針を使ってモールス信号で(大人になった)娘にブラックホールのデータを送り始め、娘はそれを必死で書き留めます。モールス信号って... いったい何ビットのデータが送れたんだよと突っ込みたくなります。娘はこれで重力の方程式が解け、「エウレカ!」と叫びます。

 

更に凄いのが娘とコンタクトできた理由というのが「愛の力だ!」と高らかに宣言するのです。思わず力が抜けてしまいました。今時「愛の力」って。凄過ぎます。「愛の力」が出てきた以上もう無敵です。何でもありです。

案の定、これ以降はなし崩しです。いつの間にかブラックホールからは抜け出しているし、おまけにワームホールからも抜け出して元の太陽系に戻ってきてしまっています。もう理屈付けをする努力すらしていません。更に凄いのが、気を失って土星上空を漂っているところを、偶然通りかかったシャトルに収容されたという。おいおい「偶然通りかかったシャトル」って... 

 

この作品、全体的にやはり文系の人間が聞きかじりの知識だけでストーリーを作りあげた感がぷんぷん漂っています。厳密なスケール計算は完全無視。「量子重力理論」とか「裸の特異点」とかキーワードは押さえていますが、あまりにも表面的なのです。無理矢理「マーフィーの法則」を絡ませてみたりするあたり、いかにもという感じがします。

物理学者の先生が制作に参加しているという話もありますが、ストーリー作りにどこまで関わっているのかは分かりません。STAP細胞論文みたいに名前を貸しているだけかもしれないし、多少声を上げたところで、一般相対性理論なんて、プロデューサーとかスポンサーとか、ハリウッドの論理にかき消されてしまったのかもしれませんし。

 

しかし所詮エンターテイメント作品。あまり重箱の隅をつついても詮の無いこと。こういう突っ込み所満載の作品って個人的には嫌いではありません。色々な楽しみ方ができますから。ラストはあわよくば続編を作ろうという魂胆も見え隠れします。是非作って欲しいものです。しかし興行的に成功したという話も聞かないし、まあ無理かなあ。

歯科医療における隠れた危険性について

最近の病院では月初めに必ず健康保険証を提示させられます。

私が通っている歯科医院では、受付で提出した保険証を事務担当の看護師が何故か治療中に返却しに来るのです。治療中だと診察台に寢ているわけで、そうすると鞄には手が届きません。となるととりあえず胸ポケットなどにしまうわけです。そしてそのまま忘れてしまうのです。

するとどうなるかというと、もう想像がつくかと思いますが、そう、そのまま洗濯してしまう可能性があるのです。

というかしてしまいました。それも続けて二度も。

もう勘弁してよ。保険証の再発行って面倒くさいんだよな。色々書類書かされるし。

食品カロリーの知られざる事実

カロリー気にしてますか?

最近は色々な食品にカロリーが表示がされています。

しかしこのカロリー表示ってあまりあてにならないってこと知ってましたか?

カロリー表示は食物に含まれる脂質やタンパク質、炭水化物等のエネルギー量を表すものです。これは間違いありません。

しかし同じカロリーでも食物によって消化されやすさはまちまちなのです。

更に同じ食材でも煮たり焼いたり揚げたりすることによって人体に摂取される量は大きく変化します。一般に調理すると繊維が破壊されるので、吸収されやすくなる傾向にはありますが、これもやはり食材や調理方法によりその度合いは大きく異なります。

 

植物はできる限り自分の子孫を残すため、動物に食べられても種子は消化されないよう進化してきました。植物の種子というのは極めて消化吸収されにくい食物なのです。ピーナッツ、ピスタチオ、アーモンド等は他の食物に比べて吸収カロリーが小さいことが研究で示されています。これは ナッツ好きの人にとっては朗報です。実際ナッツ業界の人達はこの研究結果を力強く支持しているそうです。

逆にハチミツなどはほとんどスルーで消化壁を通過してしまい、消化器系の出る幕さえなく吸収されてしまうものもあります。

 

更に人種によってもある特定の食物を吸収しやすい特徴を持つこともあります。例えば日本人の中には海藻に対し、極めて高い消化能力を持つ人々がいることが知られています。これは腸内細菌が関係しています。

 

こういった様々な要因があるため、カロリー表示だけで、この食品は太るとかということは言えないのです。消化のしやすさまで含めた正確なカロリー指標を計算する手法は確立されていません。というか消化というのは極めて複雑な過程なので、それを正しく反映することはほんとど不可能だと考えられています。

さあこれで高カロリー食品を口にする口実が一つできましたね。

 

続・ブラックホールからエネルギーを取り出せるか?

前回ブラックホールからエネルギーを取り出す方法として、ブラックホールに物質を投げ込み、そのとき放射されるエネルギーを利用する方法を検討しました。

 

masamichi441.hatenablog.com

 

実はブラックホールからエネルギーを取り出す別の方法があります。そしてこの方法は更に魅力的なのです。今回はそれについて考察したいと思います。

 

ホーキング放射

ブラックホールにはホーキング放射という奇妙な現象がつきまといます。かの有名なスティーブン・ホーキング博士が唱えた現象です。

ホーキング放射を理解するためにはまず真空の構造を理解しなくてはなりません。真空といえば通常は何も無い空間を指しますが、量子力学では真空の中で常に正エネルギーと負のエネルギーを持つ光子のペアが生まれて、すぐに再結合して消えるという「ゆらぎ」が発生していると考えます。これらのペアは瞬時に消えてしまうため、それぞれペアの片方を個別に取り出すことはできません。つまり通常であれば真空からは何も取り出すことはできないということになります。

しかし時空が極端にひん曲ったブラックホールの近傍では事情が違ってきます。僅かな確率ですがブラックホールによってペアが引き裂かれるものが出てくるのです。つまりペアの片方がブラックホール内部に落ち込み、もう片方がブラックホールから逃げ出すものが出てきます。この逃げ出した粒子が「ホーキング放射」です。ホーキング放射によりブラックホールはだんだん質量を失い、最後には蒸発して消えてしまいます。

ブラックホールもエネルギーを放射し、寿命を持つのです。それまで物質を吸い込む一方だと考えられていたことからすると、この考え方は衝撃的でした。

私はこのホーキング放射の仕組みを知ったとき、これは真空からエネルギーを取り出す魔法のポンプではないかと思いました。まさに「真空ポンプ」です。

 

大きなブラックホールは役に立たない

ホーキング放射のエネルギーはブラックホールの質量に反比例し、消滅までにかかる時間は質量の3乗に比例します。つまり大きなブラックホールほど放射は小さく、寿命は長いということです。

例えば太陽と同じくらいの質量を持つブラックホールの場合、放射エネルギーは宇宙のバックグラウンド・ノイズよりも小さく、観測すら困難です。更に寿命は現在の宇宙の年齢の10の57乗倍という、考えるのもバカらしくなるような長さなので、ほんとんど無視できる物理現象です。

通常の天体現象で生じるブラックホールは最低でも太陽の数十倍の質量があります。なのでこれらはエネルギー源として使うことは不可能です。

 

マイクロ・ブラックホール登場

逆に小さなブラックホールでは放射エネルギーは大きく、蒸発も早くなります。蒸発が進めば更に放射が大きくなり、この循環である程度以下のブラックホールでは大きくなる放射と加速する蒸発が一気に進み、最後は核爆弾など比較にならないような大爆発を起こして消滅してしまいます。

そこでまたマイクロ・ブラックホールの登場です。例えば適度な質量で適度なホーキング放射をしているブラックホールがあればエネルギー源として使えるかもしれません。更に寿命が例えば宇宙の年齢くらいもあれば、人類が生きている間くらいは楽勝でエネルギーを供給し続けてくれます。エネルギー問題など一気に解決です。

このエネルギー源の凄いところは燃料すらいらないということです。ブラックホールが真空からどんどんエネルギーを汲み出してくれます。強いて言えば蒸発していくブラックホールそのものが燃料と考えることもできます。そして放射するほどに更に強いエネルギーを放射するようになります。

多少蒸発が進んでも、適当に何か物質を放り込んでやればブラックホールはまた質量を取り戻します。

 

残念な結論

などということを考えていたとき、日経サイエンス2015年7月号に「ブラックホールからエネルギーを取り出せるか」という正にこのブログと同じタイトルの記事が掲載されました。簡単にこの記事の結論だけを述べると、まずブラックホールの回りに漂っているホーキング放射を取り出すには、ロープ(のようなもの)を垂らしてそれを汲み上げなくてはならない。そのために理論的に考えられる限り最大に強靭なロープを作ったとしても、ブラックホールの強力な重力には耐えらない。よって結論として、エネルギーを取り出すことは不可能であろう、ということです。残念!

 

しかし諦めきれない

しかしロープを垂らせないというだけの理由で諦めてしまうには、この真空ポンプのアイデア、あまりにも魅力的過ぎます。

この記事でどうも納得できないのが、本当にロープを垂らすしか方法が無いのだろうかということです。ホーキング放射は熱放射のかたちで観測されることが知られています。(実際に観測されているわけではありません。念のため。) 放射である以上ある程度離れた場所からでもそれを受け取ることができる筈です。上に述べたようにブラックホールは最後にはホーキング放射の大爆発を起こすことが知られており、実際にそれを観測しようとするプロジェクトも進められています。なのでわざわざロープを垂らさなくても、ごく一部ではあれ、放射を受け取ることは可能な筈です。

あとは量の問題で、ブラックホールからある程度離れた充分に安全な位置からホーキング放射をどの程度受け取れるかということになります。残念ならが私は専門家ではないので、このあたりの計算はできません。

 

前回も述べましたが、マイクロ・ブラックホールはこの宇宙に存在するかどうかすら分かっていません。しかし超未来の人類はブラックホールを自由に作り出し、コントロールする技術を手に入れるかもしれません。そうなればエネルギー問題に悩む必要もなくなるでしょう。